Alneil262 Presents
電子迷宮夜曲 〜 彼女たちの場合 〜
 わたし達は遠い所から宇宙船(ふね)に乗って、この惑星(ほし)にやってきた。再び過ちを繰り返すかも知れないというのに…。

「わっ!!…はわわっ!!」

 支給された物に雷撃の術式の付与を施したオートガンを手にしながら、手近にあったコンテナの蔭に身を隠す。本来なら襲って来ない筈のギルチックの群が、この空間に対して異物である私を排除しようと襲い掛かってきたのだ。

「どうしよぉ…フルイドも無いし。オートガンのフォトンも少ないよぉ…」

 ふと、自分のハンタースーツの腰に下げたブラントに眼が行く。ハンターズに成りたての頃から剣を扱うのが大の苦手だった私は、気がつくとハンドガンを好む様になっていたのだった…。

『キミってさ…ハニュエールと言うより、レイニュエールだね…そんなの居ないけどさ』
『あう…ごめんなさい…』

 以前、一緒にシゴトをしたヒューキャストさんに言われた台詞。まるで私自身の存在を否定するかの様な台詞だった。頭の中に浮かび上がった雑念を振り払う様に深呼吸してから、今さっき飛び出してきた部屋の中の様子を伺うと、薄暗い部屋の中に待機中のギルチックが4体、棒立ちになっていた。そして、部屋の奥には誰かが落とした物であろうオートガンが一挺、無造作に床に転がっていた。

「よしっ!!…行くしかないよねっ…」

 「すぅ…」と、深呼吸してから残り少ないTPを総動員して中級の雷撃の術式を発動させる。差し出した両手にピリピリした雷撃の感触が感じられるのを確認すると、一気に部屋の中に術式を解放した。

「いっけぇ!!…ギ・ゾンテ!!」

 強烈な雷鳴と共に解放された雷撃が、部屋の中に居るギルチック達に襲い掛かる。雷撃を受けた何体かのギルチックが負荷に耐えられなくなったのか機能を停止する。

「残り…三機?」

 のっそりと動き出したギルチックの反撃を封じ込める為に、オートガンを構えながら部屋の中に駆け込み、近くに居たギルチックの頭部に狙いを定めてトリガーを弾く。綺麗に穴の開いた頭部から火花を散らしながら、ギルチックが後に倒れていく。

「あと…二機…!!」

 繰り出されたパンチを避けながら、咄嗟にオートガンのグリップ部分でギルチックの頭部を殴る。手持ちのオートガンは壊れてしまったけれど、私の殴ったギルチックの動きは止まっている。そのギルチックに向けて、容赦のないレーザー攻撃が浴びせられる。三機目のギルチックが、仲間の存在を無視するかの様に攻撃を仕掛けてきているのだ。

「仲間の事は無関係…さすがに機械だけの事はあるね…」

 使い物にならなくなったオートガンを投げ捨てて、部屋の奥に落ちているオートガンに向かって跳躍する。何発かのレーザーが私の髪を掠めながら坑道の壁を焼いていく。オートガンを拾って、フォトンの残量をチェックすると、ほぼフルチャージだった。安全装置を解除しながら、三機目のギルチックに向けてオートガンを構える。銃の照準サイト越しにギルチックの無機質な電子アイが光っている。

「ごめん…キミに怨みは無いんだけど…ゴメンね…」

 理解している筈は無いと判っているけど、謝罪の言葉を呟くながらオートガンンのトリガーを弾く。私の放ったフォトン弾を受けたギルチックの頭部が四散していった。

「ふぅ…危なかったぁ…」

 ドキドキする胸を抑えながら、無人になった部屋の真ん中に座り込んでしまう。地上世界の森や、灼熱の洞窟で感じることの無かった違和感。機械ばかりで無機質な薄暗い坑道の空気が恐怖心を呼んでいるのだろうか。それとも…地下に居ると言われている巨大な『何か』のチカラなのだろうか?

「さて…そろそろ行こうかな…」

 ようやく落ち着いたので、ハンターズ用のスーツについた埃を手で払ってから、投げ捨てたオートガンに手を伸ばす。その時、私の背後でガシャリと何かが落ちてくる音が響いた。

「えっ…?」

 振り向いた視界に映ったのは蒼いボディのロボット。ギルチックとひとつだけ違ったのは、その動きが私たちと同じくらいか、それ以上に機敏だった事だった。蒼いボディのロボットが、グっと力を溜めたかと思うと、私に向かって一気にジャンプして来た。手にしたオートガンをロボットに向けて撃ってはみるが動きが速すぎるのだろう、一発も当る事は無かった。オートガンを構えた私の目の前に、ロボットが着地して、腕につけたフォトン武器を振り上げる。

「やられるっ?!」

 思わず眼を閉じた私の耳に、何か金属の様な物がぶつかる音が響く。恐る恐る眼を開けると、頭を失ったロボットが、腕を振り上げたままの姿で立っていた。

「ねぇ…キミ…大丈夫だった?」

 ロボットの背後から現れたのは、真っ赤な髪のニューマンのお姉さんだった。右の手には見た事も無い武器を持っている。

「この辺は、シノワが多いから注意しないとダメだよ?」
「あ…はい…ごめんなさい…」
「まあ…私も道に迷っちゃったクチなんだけどね。仲間達ともバラバラになったし」

 「アハハハ」と笑って、お姉さんが部屋の奥にあるドアを開ける。部屋の中には、大きなコンピュータの端末が置いてあった。

「どうやら、ココが終点みたいだね。…キミもオスト博士の研究資料が目的でしょ?」
「…………」
「だんまりかぁ…ま、いいけどね」
「…………」
「さてと…シゴトを済ませちゃいますか…」

 ニューマンのお姉さんが、腰につけていたポーチからPDAみたいな物を取り出して、PDAについているコードを端末に繋ぐ。お姉さんがPDAを操作すると端末の画面上にバーが出てくる。

「こんな場所で、オスト博士は何をしてたんだろうね?」
「…………」
「水路に居るバケモノも、ここから逃げ出したって噂もあるし」
「…………」
「まあ、難しいハナシは学者センセイ達に任せれば良いかな?」

 「ピー」という電子音がして、端末の画面にデータ転送終了のメッセージが表示される。PDAからのコードを引き抜くと、右手につけた武器を端末に向かって振り下ろす。

「あ…」
「これで研究データは、アタシ達のモノ…っと」

 パチパチと火花を上げていた端末の画面が消えると、辺りには静寂が戻ってくる。その様子を見ていた私に、お姉さんがメモリスティックを渡してくれる。

「あの…コレは?」
「キミの分、ギルドに持って行けば報酬になる筈だよ。…私だけ貰うの悪いからね」
「あ…えと…ありがとう…」
「良いの良いの、困った時は助け合わないと…ね?」

 お姉さんがパイオニア2に戻る為のテレポート用の簡易転送装置を作動させると、キラキラした光が周りの壁を染めていく。転送装置の光の中に入る直前に、いきなり振り返ったニューマンのお姉さんが、さっきと違う瞳で私を見つめながら話しかけてきた。

「ねぇ…キミは、何でココに居るのかな?」
「え?…何で?」
「こんな所までノコノコやって来て、暴れ回ってさ…」
「…………」
「アタシらは、あの惑星(ほし)と運命を共にすべきじゃなかったのかな?」
「それは…それは判らないけど…」
「…ん?」
「私は、私が出来る事が何なのか知りたいから…だから、ココに居るんだと思う」
「ふぅん…」
「それに、何もしないで消えて行くなんて、イヤだもの」

 私の言葉を聴いている、お姉さんの瞳から、フっと険しさが消えた。そして…

「キミって、真っ直ぐなんだね…」
「え?…真っ直ぐ?」
「うん…何者にも曲げられないモノを持っているよ」
「そ…そんな事…ない…です」
「アハハハ…謙遜しないの。…そうだ、自己紹介してなかったね。
 私はファラン・スゥ…本当の名前と信じるかは、キミの判断に任せる。で…キミは?」
「私の…なまえ…」

 子供の頃にハンターズだった母から言われた言葉、信じていない者には名乗ってはいけない…と。

「あらら…まただんまり?…信用されてないのかな?」

 お姉さんは微笑んでいるけど、どこか寂しそうだった。そして、肩をすくめると転送装置の光の中に消えて行こうとする。

「縁があったら、また遭いましょう…それじゃあね」

 お姉さんが転送装置の中に入っていく、このままではダメな気がして。私は思わず叫んでしまう。

「待って!!!…待って…ください」
「ん?…何かな?」

 転送されるギリギリの所で、立ち止まってくれたお姉さんが私に振り返る。

「私の名前は…」
「うん?…名前は?」
「私の名前は、みう…です」

 何故か恥かしくなって、消え入りそうになって名乗った私に、お姉さんが微笑んでくれている。その瞳は、さっきと違って嬉しそうだった。

「みうちゃん…か。…うん、いい名前だね」
「あ…ありがとうございます」

 お姉さんから差し出された手を握ると、とても暖かかった。お姉さんに比べれば、私はまだまだ未熟なのかも知れないけど、私を必要としてくれる人が居る限り、私は頑張っていける。そんな気がしたのだった。

<<完>>