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トゥーラ年代記

第7章の 36 

 ’1剣士として、手合わせ願いたい’
男が部屋の前にやって来たのは、二人が夕食後の一服を
楽しんでいたときだった。
戸口で応対したラインハルトが、苦りきった表情で相方を
振り返る。
’やつだ・・・’唇だけを動かして、告げた。

 ゲオルグは、苦笑しつつ立ち上がり、’おれがやる’これまた
声を出さずに答えた。
「どうぞ、入られよ。’1剣士’殿」
ゲオルグの声に促され、’奴’が入ってきた。
背丈は青年男性の平均を越しており、悠々たる体躯には、
無駄なく筋肉が付いている。
 ・・・これが、クゥースか。とても、臆病者には見えんな。
二人の観察者は、心の中にあった、’臆病クゥース’の虚像を
修正した。

 しばらく話した後、練習用の木剣を使い、立ち会う事となった。
満月から1日分欠けた月が、裏庭を照らしている。
昼間同様、・・・とまでは行かないものの、青みを帯びた光が
降り注ぎ、剣の修練に使われるスペースは、明るかった。
立会いには十分である。
 この明るさが無ければ、旅立するつもりであった二人には、
粛々とした月光も、恨めしいばかりであったろう。

 木剣とはいえ、まともに入れば、骨を砕く。
クゥースの真意がどこにあるのか、ゲオルグは図りかねていた。
ラインハルトも、それとなく周囲をうかがうが、他に人影は
見当たらない。
単純に力量を見極める為に、やってきたのか、それとも・・・

 鋭い打ち込みが、ゲオルグの思考を中断した。
大上段に構えた、判り易い一撃だ。が、それだけに気を込め易く、
破壊力は侮れない。
かろうじて、剣刃で逸らし、距離をとった。

 ゲオルグの肩が上下している。
ゲオルグほどの男が、呼吸を乱すほどの激戦だ。
相手も、かなり疲労しているはずだが、目に見えるほどの
乱れはない。
 ラインハルトは、内心舌を巻いた。
恐ろしい相手だ。
これから忍び込もうって時に、こんなのに当たるとは。
こいつが別格ならいいが・・・。
これクラスがうじゃうじゃいるって事はないだろうな(−−)

 ゲオルグが呼吸を整え、渾身の一撃を繰り出す。
ウエイトの乗った、良い攻撃だ。
踵からの力が、理想的に上半身に伝わり、鋭い振りとなって
敵を襲う。
判りやすいが、避け難い一撃。

 クゥースは、剣波で受けた。逸らしたかったのだろうが、ゲオルグの
踏み込みが、それを許さなかった。
’バキィ’・・・妙に、終わりが高い音がした。
何かが折れた音だ。
二人の動きが、止まった。


次章に続く


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