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戦国伝

第5章 

 戦後処理を終え、気晴らしに、狩に出かけた。
野人の家を見つけ、今宵の宿とする。
その旨を、伝えさせたところ、部下の態度が礼を欠いたらしく、
野人が赫怒した。
別の部下が、この方は国の王である。控えよ、と諭したが、
野人は、ますます怒り、鋭い言を放った。

曰く、
’貴方の国というが、私は1度も、貴方の恩恵にあづかって
おらぬ。民だというなら、野盗の襲来を受けたさい、なぜ助けを
よこさなかった。この地は私が家を建て、耕し、野盗と1昼夜に
及ぶ戦いをして、守り抜いた地だ。山野から食える実を持ち帰り、
わずかな開墾地に植えて、生きているのだ。貴方の部下が馬を
入れ、たむろしている場所は、畑だ。

貴方の国ならば、なぜ治水をせぬ、野盗を防ぐ関を設けぬ。何ゆえ、
畑を荒らし、山野の禽獣を追い、家屋から家人を追い出すのか。
それでは、野盗と変わらぬではないか!’

 怒った部下が、野人に飛び掛ったが、あっさりとかわされ、組み
敷かれた。
その部下の首筋に小刀をあて、なおも野人は言い放つ。

’何のために、民衆を足元に見、睥睨しているのか。いざと言う時、
君を守れぬ頭ならば、必要はなかろう。’

 それを見、その言を聞き、私はおもわず刀に手を掛けた。
部下も、色めき立つ。

’敵に捕らわれるような部下は要らぬか? 私ともども斬り捨て、
己の体面を守るか? ・・・貴方は、后では無いのか? 地神の
代弁者たる国の主が、己が面子で人を切るのか?

 私は、衝撃を受けた。
国主が地神の代弁者であり、后と尊称されていた事は、今や、
貴族ですらほとんど知らぬ古い知識だ。
この人物は、ただの野人ではあるまい。学者か、どこかの王侯の
落胤かも知れぬ。
私は、非礼を詫び、部下を放してくれるよう頭を下げた。

 野人の要請に従い、部下を畑から出し、馬と、兵車を分け
外した兵車を、家屋の周りに配した。
疑問を発した部下に、野人は、

’兵車は、外せば、即席の砦となる。馬は、裸で乗っても良い、
第一、そのまま畑に居座られては、今冬、我が家は食べるものが
消える。’
と、笑った。

 貴方は何者か、いづこかの王の血族ではないのか?
との、私の問いに、

’君子といえども、野に下れば野人となる。
国を支えるは、血にあらず。知よ。
古来、王の血族が重職を占めた国で、繁栄を続けた国があろうか?
私は、ひとつも知らぬ。’

と、答えた。

 その夜、野人と歓談し、得るものを多く感じた私は、その知恵を
拝借したいと、野人を拝した。


次章に続く


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