直線上に配置

トップ物語

トゥーラ年代記

第6章の14

騎士連合の罠の9

ハンニバル皇帝領


「出陣の用意をしろ! ロック・マー及び、ライン・サモにたむろする
山賊どもを平らげる!!」
「! 陛下、あの地所はもう・・・」
「もう?、もう、どうしたと言うのだ?」
「恐れながら、・・・あの地所は、もうわが国のものではありませぬ、
先王の代より、トゥーラの所領となっておりますれば・・・」
「おかしなことを言うな、じいは」
 ハンニバル皇帝、ボーデン・ライノは、笑いながら言った。
「私の直轄領でない、というのなら解るが、神聖帝国の領土ではない
とは何事だ? 我が神聖帝国は、大陸の西側を収める大帝国では
ないか? トゥーラとて、その1領土に過ぎぬ、・・・ましてや、トゥーラは
騎士団領と共に、ノーラとの戦の最中ではないか、・・・ならば、臣下に
代わって、朕が盗賊どもを平らげるのに、何の不都合がある?」
「・・・、ハ! 仰せの通りでございます。」
 頭を下げながら、老臣ザイン・フリーエは、考えをめぐらした。
 ・・・恐ろしいお方だ、トゥーラの王が利用した、神聖帝国の建前を
そのトゥーラを攻めるのに使うのか・・・。
 しかしトゥーラの、あの口先大魔王と誹られる男が、どう反撃を
してくるか・・・。
 何より、今のこの国に、気骨ある使える兵がいるのだろうか?
「兵の心配なら無用だ、ザイン。クゥース将軍と、私が直接指揮を
とる。留守中の宮廷を、よろしく頼むぞ?」
「・・・クゥースですと?! あの臆病クゥースですか?!」
「そう言ったつもりだが?・・・耳が遠くなったか? ザイン?」
「あの男は、決闘が怖くて、宮中より去った臆病者ですぞ?!」
「・・・それは違うな、ザイン。」
 ライノの顔つきが厳しくなる。
「あの男は、己の名誉よりも、宮中の平穏を優先したのだ。
・・・あの決闘が行われていれば、おそらくクゥースが勝っていた
だろう。だが、事がそれで終わると思うか?」
「・・・思えませぬ。名誉を汚されたノインハウ家は、兵を起こして
クゥースを攻めたでしょう。」
「そうなれば、この国は、・・・いや、皇帝直轄領は、さらに2つに
割れる。下手をすれば、トゥーラに攻め滅ぼされていたであろう、
よ。」
「・・・御意。しかし、ノインハウ将軍の方は、いかがされます?
陛下が留守と知れば・・・」
「無論、考えてある」
 再び柔和な表情に戻り、笑みを浮かべながら、ライノは言った。
「勇猛果敢にして、戦う前に敵を退ける将軍の事だ。私の先達を
命じたら、喜んで引き受けるだろうよ? ・・・万が一臆病風に吹かれた
なら、皇帝の命に背いたかどで、逮捕する。背かなければ、そのまま
露払いに使う。」
 ライノは、ワインで喉を潤し、言葉を続けた。
「荒筋は以上、だ。じいに頼みたいのは、文官どもへの根回しと、
事後の取り繕いだ。ノインハウ以外は、兵を持って動こう、と言う輩は
出ないだろう。・・・出してはならぬ。また、クゥースの手の者が、
2日後に城に到着する。うまく城内に手筈してもらいたい。・・・それと、
出陣式の準備もな?」
「・・・かしこまりまして、ございます。」
 老ザインは、静かに部屋を出て行った。


次章に続く


プラモ&パズル まじっく トップへ

直線上に配置