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トゥーラ年代記

第6章の15

騎士連合の罠の10

ハンニバル皇帝領編の2

「この手を、見てみなされ。」
 老人は、しわぶき、ひび割れた手のひらを、持ち上げて見せた。
場所は、ロック・マーの、開放された村の広場である。
「この手をどう思われるかな? ・・・わしらの頭領はな、この手を
誉めて下さった。土を耕し、村を支える、大事な手じゃ、と言うて、
なでて下さった。・・・ほれ、お前さんが追い出した盗賊頭のことじゃ。」
 そう言うと、老人は、じっと己の手を見つめた。鍬を持つ形に指が
曲がり、それ以上、伸ばせなくなった手だ。
「・・・お前さんに、それが出来るかな?」
 そう言うと、眼前の人物をねめつけた。ハンニバル皇帝、ボーデン・
ライノを、である。怒りに触れまいと、誰もが身をすくめる中、皇帝は
静かに口を開いた。
「・・・誠に、良い手じゃ、働き者の、この国を支える良い手じゃ。」
 そう言うと、皇帝は、そっと老人の手を包み込んだ。
「・・・この手が、我とわが国を、支えてくれるのじゃな。我は、この手の
価値を知るものを、追い落としたのだな。・・・約束しよう、・・・遠き地の、
年老いた父よ、我に大切な教訓を教えてくれた師よ。我は、争いの無い
国を作る!民が安心して、土を耕せられる国を作る。そなたの子が、孫が、
怯えないで住める国を作る!」
 そう言うと、若き皇帝は老人の前に、ひざまずきその両の手に接吻をして
見せた。
 ・・・!!、居合わせた誰もが息を飲んだ。一国の皇帝が平民にひざま
ずいて見せたのだ。権威を失ったとして、反乱が起こってもおかしくない
光景である。
 一方老人は、その両の目から、ただ、ただ、涙を流すばかりであった。
・・・やがて、老人が声を震わせながら、言った。
「わしは、幸せじゃ、わしは幸せじゃ!わしらの事を判って下さる方が、
国の頭領じゃ、わしを父と呼んでくださる方が、国の王じゃ・・・」
 後は、言葉にならず、ただ声を震わせて泣くのみであった。

 ・・・この時点で、ロック・マーの大半が制圧され、新たに皇帝領となる
事を、ハンニバル神聖帝国皇帝、ボーデン・ライノによって宣言されていた。
 一方、ライン・サモに向かった、ノインハウを、大将とする皇帝軍は、
組織立った盗賊団の抵抗にあい、苦戦を強いられていた。

 作者注:ハンニバル皇帝に付いての記事は、帝国書記の編纂による、
皇帝公記によっている。ご存知のように、皇帝公記は、悪書、とは言わない
までも、皇帝の威光を広める為、随所に誇張の見られる書物である。
 ここではあえて、その記述に従ったが、話の内容は、割り引いて考えるべき
であろう。
 せいぜいが、老人に謁見を許した程度であった、と、思われる。


次章に続く


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