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トゥーラ年代記

第6章の18

 部屋の中には、3人の人物がいる。
円形のテーブルを囲み、お互いを探る様に見ていた。
 ここは、ライン・サモの街にある、庁舎の一室である。
リュード一世の呼びかけにより、ハンニバル・トゥーラ・
ラインサモ暫定軍の3者による会談が、開かれている所だ。

「・・・ま、腹の探りあいは、無しで行きましょう。率直に言って
これからどうするおつもりです? ご存知のように、わが王国は
非常に厳しい状況になっています。ライン・サモにかかわっている
余裕は無い。陛下が、今後の進軍をしないと、約して頂ければ
我が軍は、干渉しませんが?」
 口火を切ったのは、リュード一世、自国を指して、公国ではなく
王国、と、言ってのけた。あくまで、神聖帝国の皇帝に、ではなく、
皇帝領の統治者と話している、との、スタンスだ。
「貴方の口から、探りあい無しと、聞かされるとは・・・」
 ライノ皇帝は、苦笑しながら返した。
「・・・よろしい、はっきりさせましょう。私の意図は、ロック・マー及び、
ライン・サモの、皇帝領への編入にある。これにより、失われていた
大陸への足掛かりを得たい。その後、トゥーラとの通商のルートが
確保されれば、それ以上は望まない。・・・同時に、神聖帝国は
トゥーラ公国を、帝国内の一領土ではなく、王国と認め、正式に
同盟を結びたいと思っております。」
 そこで、ライノ皇帝は、ちらり、と、もう一人の参加者を見た。
腕組みをし、無精ひげを生やしたその男は、2人のやり取りに
異を挟むでもなく、じっと聞いている。
「・・・貴方には、ライン・サモの、辺境公に、なって頂き、引き続き
この地を治めて頂きたい。わが国と、トゥーラ王国との緩衝地帯として、
その任に就いて頂きたいのですが、・・・」
「そう言えば、本名を聞いていませんでしたな? 統領猫、さん?」
 と、これはリュード一世。
 2人の視線を浴びて、統領猫、と、名乗っていた、ライン・サモ暫定軍の
指揮者は、口を開いた。
「・・・あんたたちの国取りゲームで、何人死んだと思ってるんだ?
・・・家族には、どう詫びるつもりだ?」
 口調は静かだが、声に怒りがこもっていた。
「・・・それを聞かせろや、な?」
 凄みの有る声だ、流石に、この地方一帯を支配下に置いていた、
盗賊の統領である。
「・・・謝ってすむ問題では、無いと思っている。本当に申し訳ない。
わが国の領土となるのであれば、出来る限りの保障をしよう。
働けるものには仕事を、それが出来ない者でも、食うに困らないよう
食糧の配給を、約そう。・・・国父として、当然の義務だと思っている。」
 口を開いたのは、ライノ皇帝。皇帝が、詫びの言葉を、(非公式とは言え)
会談の席で、発するとは・・・。
 聞いていた、リュード一世の目が僅かに見開かれる。
 統領猫は、特に感動した様子もなく、リュード一世に向き直り、無言で
睨みつける。
「・・・無事、和平が、成ったならば、出来る限りの援助をしよう。
移住したい者は、拒まんよ。」
 言い終えると、リュード一世は、統領猫をまっすぐに見返した。
その目は、名前を聞かせろ、と、言っている。
「・・・ライドール、ライドール・カウス、・・・ミユの兄、だ。」
「・・・!!」

 後に、ライノ皇帝は回想録に、こう記している。
リュード一世とは、何度か顔を会わしている。が、
彼が、動揺を表に出したのは、あの時だけだった、と。


次章に続く


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