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トゥーラ年代記

第7章の5 皇帝の思惑

 トゥーラとの条約締結で、大陸からの干渉障壁の
構築に成功した皇帝は、次の目標を海上貿易に向けた。
 1つには、トゥーラとの貿易では、思うように国益を
上げられない事、もう1つには、将来を見据え、海軍力が
必要不可欠、との判断からであった。

 この情報にいち早く反応したのは、トゥーラであった。
暖めていた、南方との交易計画を、本格化させ、先手を
打って、ガーラとの国交を樹立し、皇帝領を牽制した。
 造船技術に遅れをとっていた皇帝領は、交易競争に
出遅れ、勝ち目はないと思われていた。

 治世7年の夏、皇帝領方面のメッセンジャーから
もたらされた情報は、リュード一世を、驚愕させるに
十分なものだった。
 トゥーラの船を上回るサイズの艦船が、完成しており、
すでに処女航海を終えて寄港したらしい、というのだ。

 報告はそれだけでは無かった。
南方大陸の雄、イド5王家の旗が掲げられた、船も、
入港している、と、あったのだ。
 現在、貿易品として、もっとも旨味を出してくれる香辛料。
この’植物が生みし金’は、騎士公国が、陸路から僅かに
仕入れるものを除けば、ほぼトゥーラの独占状態にある。

 しかし、このアイテムは、トゥーラの交易先、ガーラの
産ではなく、(1部はガーラ領でも産出されるものの)
そのほとんどは、香料諸島と呼ばれる、イド5王家の領内で
産出されているのだ。
 直接イド5王家と、皇帝領が取引を始めたら、皇帝領という
巨大な市場を失うことになる。
それどころか、(当時のトゥーラの造船技術ではなし得な
かった)南方大陸への、直接渡航を可能にする、造船及び
操船技術は、陸上での交易に関する、地理的優位を意味の
ないものにしかねない。

 これまでなら、陸上の商業及び情報を、ほとんど把握
出来ていたが、海上渡航をされれば、皇帝領が、ノーラや
騎士公国と密約を交わしても、その動きを掴みきれなくなる。
 騎士公国との取引なら、ある程度、監視も可能であるが、
天候が変わりやすく、荒れることで有名な、ノーラ西部の氷海を
渡航されれば、いかに優秀なトゥーラの外務卿といえど、
その全容把握は不可能だ。

 そして、その可能性はとても高いのだ。残念なことに。
早急に、手を打たねば、トゥーラは取り残され、弱体化の
道を歩む事になる。
 リュード1世が、その威信を掛けて構築した、メッセンジャー
制度。
 その屋台骨が、今、音を立てて揺らぎ始めていた。


次章に続く


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