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トゥーラ年代記

第7章の 17 

 複雑に絡まった問題を、一気に解決しようとは思わない事だ。
1つ1つ小分けにして、個別に当らなければならない。
そうすれば、Aの問題で君の敵となった人物が、Bの問題では
味方になる事もあるからだ。

 治世7年秋、十字流道場は、自らが開いた闘技大会によって、
その面目を逸し、トゥーラっ子たちの、嘲りの対象となっていた。
’十字道場1度はおいで、無精ひげでも優勝だっ’
子供達は作者不詳の戯れ歌を歌い、警邏に見咎められると、
蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。

 もっとも、警邏も本気で彼らを追いかけはしない。警邏も市民も、
身分をかさに、やりたい放題だった十字流が、面子をつぶされた事を
心の中で喜んでいるのだ。

 一方、十字流道場内では、名誉回復の方策が、練られていた。
そして、彼らは情報をまとめ、司法機関へ提訴に踏み切ったのだ。
優勝者の影にメッセンジャー有り、と。

1、大会開催は自分達の知らないうちに告知されていた事。
2、その告知は、メッセンジャーが張り紙をした事。
3、優勝したのはシャークと名乗る人物であり、メッセンジャーに
同名の人物がいること。
4、大会前日差し入れが有り、それを食べた出場選手は、実力が
発揮できなかった事。

 以上が提訴理由であった。
法務省は、反体制派の有力貴族が牛耳っており、十字流道場側は
十分に勝算有り、と、ふんでいたようだ。
 むろん彼らが勝ったからと言ってメッセンジャーが解散させられる
わけではない。
しかし、自分達の名誉は回復され、(メッセンジャーを立ち上げた)
リュード国王に、プレッシャーを掛け得る為、貴族たちの協力を
えられると判断したようだ。

 しかし、法務省の下した決断は、彼らの予想と合致しなかった。
なぜなら、十字流道場側が名指ししたシャークなる人物は、大会開催
3週間ほど前に、トゥーラを離れていたからだ。
 疑問を持った査察官が、徹底的に調べ上げた結果、以下のような
報告が提出された。

1、張り紙は夜中に複数の人間によって張られており、誰が張ったかは
判別出来ない事。
2、十字流道場が貼ったので無いならば、その時点で異議申し立てを
すべきであった事。
3、シャークはすでにトゥーラにいず、その着衣が(返還され保管されていた
倉庫から)盗まれたと、届け出られていた事。
(メッセンジャーが犯人なら、興味を惹かれるような届出はせず、
また、わざわざ名前入りの衣服を、着用したりはしないと思われる。)
4、差し入れの事実は無く、参加者は実力で戦ったと思われる事。

 こんな報告書が上がれば、十字流の意に添った判決は難しい。
加えて、身分をかさに法を無視する十字流を、法務省の役人どもは、
苦々しく思っていたのだ。

 リュード国王と利害が一致しない為、’反体制派’と、一くくりに
されているが、その内情は1枚岩ではない。
ましてや、国の権力機構に興味を示さず、粗野に暴れ回るだけの
騎士ふぜい*は、貴族たちにとって、決して同格ではない。
 当ての外れた十字流道場は、ますます風聞の的にされ、トゥーラっ子
達は、大いに溜飲を下げたのだった。


*貴族から見た騎士:騎士の身分は貴族より低い。官位には限りがある為、
貴族の次男坊以下は、建前上騎士に任じられる場合が多い。


次章に続く


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