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トゥーラ年代記

第7章の 18 

 リュード1世が、国内の地ならしに奔走していた頃、
騎士王ルードヴィッヒも、国内再編に躍起になっていた。
 リュード1世が(当面)、領土的野心を持っていない事。また、
その関心が、皇帝領に向いていることを悟った、ルードヴィッヒは、
各地の領主を移動させ、農民とのつながりを遮断、同時に
軍事組織を再編し、かねてから計画していた、組織的な軍隊を
作り上げていった。
(それまでの騎士公国は、一騎打ちが主体の集団であった)

 形骸化し貴族化し始めていた、各領主の権力を縮小し、新たな
徴兵制度を作成。優秀な者は、出自を問わず要職に抜擢し、不平を
もらし、反抗の姿勢を見せたものからは、容赦なく騎士位を剥奪した。
 ’騎士位は、国を守護する者の尊称である。身分を問わず得られ、
子に譲る事は許されない’
 ルードヴィッヒ治世5年目のこの宣言は、(この時点で)世襲制と
なっていた、騎士制度の一大改革であり、その後の騎士公国の
方向を決定した、あまりにも有名な台詞である。

 この宣言以降、騎士公国においては、実力のあるものは(出自が、
農民であろうと)隊長職に抜擢され、同時に騎士位を授与された。
 その為、各国から人材が流入し、宰相にまで上り詰めた人物も出た。
優秀なブレーンを得、編成や用兵に一大改革を受けた騎士公国は、
強力な常備軍を有し、隣接する東の国々を攻め、領土を拡大していった。


「・・・ルーちゃんも、思い切った事、やるよなー。」
 頬杖を付いたまま、書類を眺め、リューさんがつぶやく。
「同感ですね。・・・あの国だからこそ、成功した策ですが。」
 立ったままで、外務卿が返す。
ここはリューさんの私室。本日の謁見は終わったらしい。
・・・政務は続いているようだが。

「ここでやっても、貴族どもが蔓延ってるからなー(−−)」
「ですね。かえって優秀な人材を、埋もれさせてしまうでしょう。」
「んー・・・・、優秀と言えば、あの連中はどうなった?」
「どの連中です?」
「んー、・・・全部。」
 しゃべりながら、リューさんの視線は、空中を彷徨い始める。
こういう時の兄には、何を言ってもむだだ。
外務卿は過去の経験から、それを嫌というほど知っていた。

 一通り、外務卿の報告が終わった頃、ノックの音がして、
軍務卿が入ってきた。
「おー、・・・どうだった?」
「実物(*)は、まだ・・・、どうやら弓を横に寝かせた構造をしている
ようです。」
「ほう・・・、それで正確に撃てるものなのか?」
「そのようですな、何しろ正式に配備しているようですから。」
「ふむ、・・・噂通り、速射が可能であれば、脅威だな。なんとしても
手に入れたいものだ。」
「御意。マーベリックを派遣しております。必ずや成果を持ち帰るでしょう」

「奴か、・・・うむ、奴なら任せられる。ところで、十字流の件だが・・・」
「は?」
 軍務卿にしては珍しく、間の抜けた声が出た。が、リューさんは構わず
続ける。
「名誉回復の機会を、与えようと思ってな。軍で、少し雇っちゃくれんか?」
「・・・。それは構いませんが、連中に勤まりますかな? それに・・・」
「予算だろ? それは、こっちで何とかする。・・・通用しなければ後がないからな。
連中も使えるのを出してくるだろう。考え方と練度を見て、丸ごと抱き込むか、
人材を抜くかを決める。見極めを宜しく。」
「了解しました。」

*:弩と呼ばれる弓。騎士公国が軍再編に当って導入した新兵器。
元々、東方の民族が使用していた馬上用の武具で、この時点のトゥーラに、
その知識は無い。


次章に続く


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