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トゥーラ年代記
第7章の 21
「面会者が、来られております!」
きびきびとした声と動作で、警備の騎士が来客を告げる。
「・・・、予定は無いはずだが?」
ルーちゃんは、傍らに立つ人物に話し掛けた。その間も、書類から目を上げない。
この所、改革続きで、目を通す必要のある書類が、山積みになっているのだ。
持ち上げるだけで、腕が疲れそうなほどの量だ。・・・リューさんなら、嫌気がさして
脱走しそうである。
「予定外、・・・ですかね。おおよその目星は、付きますが。」
答えを返し、傍らの人物は静かに微笑んだ。青年・・・と言い切るにはやや年かさだが、
一国の王を補佐するには若く見える。ルーちゃんが改革に際し、大抜擢した人材だ。
女性のように長い髪は、よく手入れされていて、腰に届きそうな長さなのに乱れた所が
無い。。
自分と同じくらい、政務に時間をさいてるはずなのに、何時、手入れなどするのやら・・・
視線を上げ、その姿を見ながらルーちゃんは思う。
「だれだ?」
ルーちゃん、騎士公国王ルードヴィッヒの問いを、自分へのものと解釈したのか、
入り口の騎士が、答えを発する。
「フライ屋の若旦那、コウと名乗っております。・・・が、」
少し言いよどみ、続ける。
「自分の考えでは、民間の人物では有り得ません。・・・・おそらく、」
騎士は再び言いよどむ。
「続けろ。」
ルーちゃんが、促す。
「あの方は、トゥーラ王家筋のご使者だと思われます!」
騎士は言い切った。
あの騒動(*)を知っている者なら、その名乗りだけで気が付くだろうが、
この騎士は、あの時のリューさんの通り名を知らない。
人を見る目の確かな騎士と、いえるだろう。
ルーちゃん、なかなか優秀な人材を、そろえて来ているようである。
改革は大成功、と言った所だろうか。・・・書類の束は、溜まってるが。
「オーイ。・・・いいかげん、入れてクレヨー(−−)」
少々ふてくされた感じの声が、廊下から聞こえてきた。ご存知、我らがリューさんである。
ルーちゃんが鷹揚にうなずき、騎士に合図した。
旅人姿のリューさんが入ってくる。お供は、・・・いない。
「・・・無用心ですぞ、リュード陛下。かつてのように、私が襲いかかるとは
考えなかったのですかな?」
「チラッと、考えましたがね・・・ お? 新しい宰相閣下ですかな?」
「ラル=ハンと申します、陛下。以後お見知りおきを。」
青年は優雅に腰を折って見せた。
「宜しくね^^ ・・・ところでルーちゃん。今回の改革、見事だったねぇ!
正直、報告聞いた時は、うらやましかったよ!><」
「・・・、それはどうも、リュー・・・ちゃん。」
ぶすっとした声で、ルーちゃんが返す。
いきなり愛称で呼ばれるとは、思ってなかったようだ。
「それで、ご用件は?」
幾分平静な声に戻りつつ、ルーちゃんが聞く。
「ああ! そうそう^^ 実はね、ルーちゃんが面白そうな新兵器、使ってるって聞いたから
1個分けてもらおうと思って^^」
のほほーんとした顔で、とんでもない事をいう奴である。さすが、我らがリューさん。
常識という言葉は、彼の辞書には無いらしいw
「・・・分けてあげないでもないが、見返りは何を貰えるのかな? リューちゃん。」
意外な答えが、ルードヴィッヒ公国王から返ってきた。
リューさんの顔から、へらへらした笑が消える。
「うむ。・・・メッセンジャーシステムの、ノウハウでどうかな? 」
今度は、ルーちゃんが、居住まいを正した。
「それは、それは・・・。確かに欲しいが、我らで使えるかな? 」
「無論、きちんと指導できる人材を、お渡しするよ。加えて、ラーダまでの詳細図を渡そう。」
「! ・・・驚いた。正直、そこまでの好条件が、出てくるとは思わなかったよ。君を殺さないで
よかった。」
リューさんは、フッフッフと邪悪な含み笑いをし、こう言った。
「ただし、条件がある。」
一呼吸して、続けた。
「・・・まず、椅子をくれ。立ってるのに疲れた。」
・・・リューさん、あんた何処でも、マイペースなのねTT
* リューさん宮廷脱走事件の事。
第6章の8、参照。
次章に続く
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