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トゥーラ年代記

第7章の 24 

 リューさんが宮殿で、た〜っぷり(弟に)脂を絞られていた頃、トゥーラ王朝の
特命を受けた商船は、5王国へと向かっていた。
皇帝領との繋がりがある為、すんなりとは許可が降りないだろうと、覚悟は
していたものの、やはり上陸を許されず、港外で1週間ほど、待たされる事となった。

 しかし、その間交易に関しての、禁止令は出なかったらしく、小船が水や
新鮮な野菜を、売りつけにやってきた。
お陰で、一行はのんびりと、許可が出るのを待つ事が出来た。
友好的な雰囲気は入港後も続き、役所以外では、彼らは歓迎され、久しぶりの
地面の感触を、思う存分味わったのだった。

 この港湾都市は、自由独立の気風が高いようで、商人たちはあまり役人に
頭を下げない。
いや、尊大なわけではないが、必要以上にへりくだる様が無い。
役人が威張っている風景を見慣れてきたイレフにとって、それは新鮮な驚きだった。
何時しかイレフは、トゥーラの1役人ではなく、1人の商人として彼らと接し始めていた。
そして、純粋に商売の知識が増える事が面白く、やたらと聞いて回るイレフを、
彼らは実に親切に、迎え入れたのだった。
この町の様子や、取り引きの際の注意点、譲る場合、譲れない場合、真贋の
見極めなど、イレフは新たな知識を、貪欲に吸収していった。

 毎日が驚きの連続と、知識の吸収で、幸せの中にいたイレフだが、やがて
王宮から許可が下り、施設の一員として、役人に戻る時が来た。
リュード国王の親書を渡し、貿易の許可を取らなければ、ここから帰る事が出来ない。
しかし、これまでの役所側の対応から、事はそう簡単には行きそうも無かった。
もっとも、使節の正使はイレフではない。彼は見かけ上、副使の一人とされているが、
実際の交渉には携わらない。・・・いや、携われない事になっている。

 微妙な省間の縄張り争いが、関わっているからだ。
イレフとしても、その方が都合が良い。これから先相手をしなければならない
人物達を、じっくり観察できるし、何より細かな事務手続きと、腹の探りあいは、
うざったいだけだ。
関わらずに住む事が出来れば、それに越した事は無い。
そんな考えでいたので、彼は道中、見聞きする物事を書き止め、気楽に旅程を
楽しんでいた。

 後年、この時のイレフの文章とスケッチが、本として(*)出版され、人気を博すが、
その話は、また別の機会に譲る事にしよう。


(*)5王国の聞きかじりと、題された作者不詳の本。
自由港ラーンから、王都までの旅程を書き綴った本で、その間の収支も
細かく記載されている。
その為、トゥーラの一行に同行した商人の作といわれているが、公式記録を見る限り、
特使一行に商人は同行していなかった。


次章に続く


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