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トゥーラ年代記

第7章の 25 

 トゥーラと、5王国のファーストコンタクトは、不首尾に終わった。
5王国側は、親書を受け取りはしたものの、正式な返書は返さず、口頭で
返事をしたにとどまった。
5王国側のこの処置は、少なからずトゥーラ使節団を落胆させた。

 トゥーラが献上した、紅玉碧玉の類が、(トゥーラとしては、唯一長期航海に
耐えうる、輸出物であった)南方交易の集積地である5王国にとって、さほど
珍しいものではなかった事と、神聖帝国(彼らはそれが存続していると考えて
いた)の皇帝と、親書を交わした事実があった為、(その属国と考えられる)
トゥーラに返書を出すには、至らなかったようだ。

 これには、5王国側の事情もある。神聖帝国の件に付いてはトゥーラ使節団から
説明がなされたが、5王国側では、トゥーラを神聖帝国の属国、ないしは1領土と
しか捉えてなかった。
なぜなら、5王国は、それぞれ領土を持った5つの王家によって、運営されていた
からだ。
神聖帝国が名前だけの存在と聞かされ、トゥーラ王国は皇帝領と対等と聞か
されても、彼らはにわかには、信じる気になれなかった。
南方諸国には、いまだ神聖帝国の名が、威光を放っていたのだ。

 帰朝した使節団からの報告を聞き、外務卿は頭を抱えた。
’紅玉碧玉が、珍しくない?!’ では、何を!・・・何を、持ち込めば良いのだ。
かの国では、何を求めてる・・・。皇帝狐は、過去の威光だけで、国交を
もぎ取ったのか?
 答えを見出せぬまま、目は再び報告書の文字を追い始めた。
正使の報告とは別に、幾人かの役人からもレポートが提出されている。
その大半は自分を売り込む為だけの、中身の無いものだったが、中に面白い
ものが混じっていた。

 市中の様子や、庶民の暮らしぶり、自由闊達な港の雰囲気などを、生き生きと
した筆致で、書いている。書き手の心の躍動が伝わってくるようだ。多少表現が
拙い所はあるものの、まるで自分もそこにいるかのような気にさせてくれる。
考えの煮詰まった外務卿は、主君への報告を明日に回す事にし、その報告書を
楽しむ事にした。

 中に・・・面白い記述があった。
かの国では、人々が食を十分に堪能し、飢えることがまず無い。
その為、普通では手に入らない食材が珍重され、高値で取り引きされている。
中でも、大魚あるいは真黒と呼ばれる、人の背丈ほどにもなる魚は、珍重され、
その身は高値で取り引きされる。
 しかしながら、この魚は沖に出ないと取れない。かの国の操船技術が発達した
のは、この魚を追い求めた為ではないか。と、書いてある。

 面白い話だが、食料品・・・ましてや、海の上でしか取れないものでは献上品には
ならない。
 この話には、続きが書いてあった。昔語りで聞いたものだがと、前置きし、
昔、この魚はあまりにも美味なので、大公魚と呼ばれていた。
しかし、大公を食するのはいかがなものか、と言い出した者が居り、上をはばかって、
公の字が抜けた。
それ以降、大魚と呼ばれるようになった、との事だそうだ。

いつしか外務卿は、夜のふけるのも忘れ、この読み物に夢中になっていった。


次章に続く


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