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トゥーラ年代記

第7章の 26 

 朝方、ようやくベッドに入った外務卿。明日も朝から会議だ。
休まなければ、身が持たない。
しかし、疲れきった体とは裏腹に、心は翼を自在に広げ、遠い異国を
駆け巡っていた。・・・とても眠れそうも無い。
自分の中に、まだこれほどの冒険心が残っていたとは、驚きだった。
王と共に国を背負うと誓った日から、人であること、己の夢や望みなぞ、
捨てた気でいたのに。
 寝る事を諦め、己の心と、徹底的に付き合う気になり、南国の大陸を
飛び回っている内、ミレルは眠りに落ちていった。

「ックシュン! ・・・、う”−」
 自分のくしゃみで目を覚ますなんて、何年ぶりだろう。・・・不覚、風邪を
引いたかもしれない(−−)。
外務卿にしては、珍しいミスである。考え事をしながら寝てしまった為、
布団を、きちんと掛けなかった様だ。それだけ、あの報告書が、面白かった
のだろう。
霞が掛ったかのような感覚の中、ミレルはのろのろと、出仕の準備を始めた。
 役人達の報告も、書類の内容も、いまいち頭に入らない。
気ばかりがあせるが、こればっかりは、どうしようもない。

 午後になり、ますます辛くなってきたので、ハーブ茶でも調合してもらおうと、
厨房に向かった。
料理長に風邪を引いたらしいと伝えると、彼は黙って椅子を勧め、いくつかの
ハーブを、鍋に入れ始めた。
「・・・ミレル坊ちゃん。最近東方から届いた、カンポーとか言うハーブ、試してみますか?」
「カンポー? ・・・あぁ、東都の周辺で使われてるやつだね。風邪に効くの?」
「体を温める作用のものが、いくつかありました。これに、胡椒をあわせて見ましょう。」
「それは・・・、効きそうだけど高そうだね^^;」
「病人は、余計な事を気にしちゃいけません。王室の贅沢は戒めるべきですが、
病人の贅沢は咎めるべきでは有りません。」

 さらりとそう言ってのけ、さらに、
「リュード坊ちゃんが潰す鍋代に比べたら安いものです。」
と、言い足す。
 ミレルが苦笑いをしてると、その前に不思議な色合いの器が運ばれてきた。
「・・・これは?」
「東都周辺で、茶を飲むのに使う器だそうです。最近、輸入量が増えたらしく
市井でも見かけます。1つ買ってみました。」
蓋のついたカップ状の入れ物で、白い肌に濃いブルーで文様が描かれている。
「・・・良い、雰囲気だねぇ」
「ええ、なんでも、水瓶なんかにも、このような装飾ができる技術があるとか。
・・・ま、噂だけですので、真偽は不明ですが。」
「・・・ほぅ。水瓶にもねぇ・・・。」

ミレルの中で、何かが引っかかった。・・・が、風邪で霞んだ思考では、
その引っ掛かりが何かを、突き止める事はできなかった。


次章に続く


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