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トゥーラ年代記

第7章の 28 

「東都の情勢?」
「はい、・・・何でも、めずらしい磁器があるとか。」
「ああ、白磁ね。・・・欲しいの?」
「ええ、文様を見て気に入りました。・・・高いですか?」
「うーーーん。・・・兄としては、物をねだったことの無い弟に、
買ってやりたいのは、山々なのだが・・・」
 ここは、リューさんの居室兼、執務室。公務を終えて(つまり
儀式的な会見を終えて)、実務に入った所である。

「よろしいのではないですかな?」
口を挟んだのは、軍務卿ランカスターだった。
「騎士公国も、ここのところ、大規模な行動は控えております。
外務卿が視察に回られるには、良いタイミングかと。」
「ふむぅ。・・・ルーちゃんに連絡とって、お忍びで行って来るかい?」
「え?! ・・・よろしいのですか?! 」
 ミレルの顔に、戸惑いと喜色が表れる。

 即位式の後、・・・いや、生まれてからずっと、城から外には満足に
出たことが無い。
ミレルの、外の世界を見てみたい気持ちは、リューさんには、痛いほど
良く解かる。
今まで、自分が無茶をして迷惑をかけた分、ここで弟に、ささやかな
休暇を楽しませてやりたい。リューさんの、そんな心使いだった。

 自分が抜けると、国の運営は厳しくなる。
ミレル卿に戸惑いが見えたのは、その事を思ってだった。
しかし、兄を始め二人の大臣に、’即位直後に比べれば、平穏平穏’と、
軽く笑い飛ばされ、思いがけなくも、城を離れる機会を得た。
 あの夜、心が旅した南方大陸には遠く及ばないが、己の目で
直接見聞きできることは、ミレルにとって、大きな喜びだった。

 ベットに入って、机の上に積まれたままの、報告書の束を眺める。
’・・・ああ、私は羨ましかったんだ。’ミレルは、やっとその事に気がついた。
あの、生き生きと書かれた報告書が、その旅を経験した官吏が、
羨ましかったのだ。
・・・しかし。
ミレルは笑みを浮かべつつ考える。

’もう、羨ましくはない。だって、私も旅に出るのだから! ’
 旅先で、直接壺の値段を交渉する。そんな自分を想像し、再び笑みが
こぼれる。
あの報告書も、荷物に入れていこう。それから、自分の行動もちゃんと
記録に残して・・・
何時しかミレルは幸福な眠りの中に入っていった。


次章に続く


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