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トゥーラ年代記

第7章の 29 

 ’困ったなぁ・・・。’高く晴れ上がった空の下、シャークは幾度めになるか
解からない、苦笑をもらした。
子供たちの歓声と、人々の熱気が、自分を取り囲んでいる、
人の集まる様子に引かれ、ふらりと立ち寄った事が、発端だった。
祭りだったのだ。年に1回の、収穫を祝う祭りだ。

 南国のこの地でも、緩やかにだが、季節はある。
穀物の収穫を終え、村は年に一回の、歓喜の祭りを迎えようとしていた。
この祭りには、彼我の区別が無い。
旅人であろうと、野伏であろうとも、祭りに参加する権利が、与えられるのだ。
’ちょっとだけ覗いていこう’そう考えたシャークが、大歓迎をされたのも、
そのような下地があったからだ。

 しかしながら・・・、参加する権利は与えられるが、勝手に止める権限はない。
シャークは、その事に考えが及ばなかった。
参加者は、祭りが終わるまでの2〜3日の間、会場から離れることは出来ない。
固辞しようとするシャークを、村人たちは許さず、祭りのメインになる武術大会に
むりやり出場させたのだった。

 武術大会といっても、剣や槍を使うわけではない。
素手で格闘し、膝か背中を、地面に付けた方が負けという、一風変わったものだ。
どうやら、護身術から発達したらしい。
主に、剣を使った戦闘をこなして来たシャークには、間合いやルールで、戸惑う
事ばかりだ。

 おそらく、’膝に土が付けば負け。’という決め事は、大怪我をさせないためなの
だろうが、常に、命のやり取りをしてきたシャークにとっては、どの程度強く打ち込んで
いいか、加減が難しい。
また、膝立ちからでも反撃し、相手を殺せることを知っている為、自分が、そこで負けを
認められるかどうか、熱くなって反撃をしないかどうか、甚だ疑わしい。
そう思い、辞退しようとしたのだが、シャークの筋肉を見た村人たちは、それを許しては
くれなかった。
そして今、人々に囲まれ、緒戦の相手と、対峙している、という訳である。

 ・・・痩せてるなぁ。思いっきり突いて、大丈夫かなぁ。
目の前にいるのは、40前後の農夫である。筋肉質とはいえない。
しかし、その肉体は、きつい農作業で鍛えられ、しなやかさを保っている。
フェイントで放った、ジャブとミドルキックをかわし、隙を見せたシャークの
蹴り足の外側から、両手を差し出すような体勢で、腰にしがみ付く。
そのまま、後方に投げられそうになり、シャークは慌てて重心を落とし、相手の
頭を抱え、顎を捩じ上げて、事無きを得た。

 ’あ、・・・危ねー><’シャークは、冷や汗を流した。
予想より、遥かに動きが機敏だし、力もある。遠慮は、無用のようだ。
しかも、今の体勢は、最悪である。いつ投げられても、おかしくは無い。
’・・・、一回戦敗退はみっともないなぁ。’シャークが、そんな事を考えてると、
周りの観客から、ブーイングが聞こえてきた。
”その体は見掛け倒しかー?! ” ・・・野次も、飛んでくる。

 ・・・むう。力を入れて、相手の手をねじり上げたい所だが、相手は呼吸を調整し、
こちらが仕掛けるタイミングを、計っている。
下手にバランスを崩すと、その瞬間に投げられるだろう。
かと言って、いつまでもこの体勢では、居られない・・・。


 結局、1回戦は、投げに来た農夫に、体重を浴びせかけることで、
逆に背中をつけさせ、辛くも勝利を得た。
農夫は、一瞬悔しそうな表情を見せたが、にっこり笑って握手を求めてきた。
その手を握り返しつつ、シャークは、楽しみ始めている自分に気付き、
口元に、笑みを浮かべた。
それは苦笑では無く、晴れやかな笑顔だった。
観衆から、二人に、惜しみない拍手が送られた。


次章に続く


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