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トゥーラ年代記

第7章の 31 護衛家業


 店に入り、カウンターで親父と話した後、男は、まっすぐにテーブルを
目指して歩いてきた。
辿り着くと、片手を胸に当て、わずかに腰を折る。’騎士’と、名乗った。
俺は、目礼を返した。頭は、下げない。
連れが、非難がましい目を向けて来た。
 ・・・つれか? ここ2回ほど、組んで仕事をしてる相手だ。
それほど親しいわけじゃない。
今日も、仕事があるってんで、待ち合わせた所だ。
どうやら仕事は、今、来たらしい。’騎士に下げる頭は、持っちゃいねぇ’
奴が差し出した手を握らず、こう言った。
『悪いな、握手はしない主義なんだ。』

 俺は、騎士なんて名乗るやつは、信用しねぇ。
連中は、上等なマントを羽織っているだけの、ただの人殺しだ。
それが、堂々と街中を歩くばかりか、えらそうにふんぞり返ってやがる。
戦場で、相手の血を啜るのが、仕事のはずだ。血なまぐさい犬っころが、
街中をうろついてんじゃねぇよ。・・・反吐が出るぜ。

 背に腹は、変えられない。仕事をえり好みできるほど、裕福な状態じゃ
なかった。
より正確に言えば、滞在2日分の宿賃を払う当てがない。なじみの宿とは
いえ、明日にでも、追い出される所だった。
幸い、この犬っころは躾が出来てたらしく、俺の態度に腹を立てた様子も
無い。
連れが、最大一ヶ月の契約で、護衛の話をまとめた。

 護衛1日目、護衛対象に会う。質素を装ったいでたちだが、マントは上質の
布で、織られている。15〜6才、と、いったところか。どこかで見かけたような
顔だったが、貴族の顔(特に男)には、興味が無い。
昨日の犬っころは、装いを変え、質素なマントと、使い込まれた皮鎧を着て
いた。背中には、これまた年季の入った、バックパック。・・・、ただの犬じゃ
なかったか。

 護衛二日目、早朝、二階の窓からロープを垂らし、それを伝って降りる。そして
また登る。2セット目を終えた所で、護衛対象に、不思議そうな顔をされた。
『何をされておられるのですか?』邪気のない顔で、聞いてくる。
無視して、再び降りる。そして登る。
 ・・・いらだった風情も見せず、俺が答えるのを待っていた。
これだから、支配階級は・・・。己の問いに答えが返らない事など、予想の外
なのだろう。
ニコニコ笑う顔が邪魔で、室内に入れない。どうやら、説明しないと退いて
くれそうもない。

『トレーニングですか?』
 ・・・おや、珍しい。重ねて問いを発する支配階級は、始めて見た。
しかし、相変わらず答えを聞くまでは、退く気が無いようだ。
俺は、諦めて答えを用意する事にした。
『それもある。・・・が、メインは、ロープの使い込みだ。新品のロープは、その
ままでは、使いづらい。ある程度、使い込んでおかないと、いざと言う時に、
役に立たない。』
 護衛対象の顔に、理解の色が広がる。・・・が、相変わらず同じ場所にいる。
そろそろ、腕が震えてきた。これ以上この体勢でいると、今日の護衛に、
差し支える。
俺は、しぶしぶ負けを認めた。
『・・・そこを、どいてくれないか? 中に入りたいんだが・・・』

『!ごめんなさい』護衛対象は、びっくりした顔をし、慌てて中に引っ込んだ。
・・・護衛に雇った者に、’ごめんなさい’?
慌ててたにしても、らしくない。年端も行かないガキじゃあるまいし、貴族の
鼻持ちならないプライドは、体に染みこんでいるはずだ。
護衛に謝った事を後で悔やみ、逆恨みでもされなきゃいいが・・・。
 考え込んでいたら、再び窓から、護衛対象が覗き込んできた。
もう仕返しか? と、思ったら、『あの、・・・手伝いましょうか?』と、のたまう。
手振りで’どけ’と、合図して、ようやく室内に戻った。

 二の腕が、パンパンに張っている。・・・まずった。これでは午前中いっぱい
剣が握れないだろう。俺一人での護衛ではない為、大事には至らないだろうが、
らしくない。スプーンをもつ手に力が入らず、取り落としてしまった。
護衛対象の顔に、心配そうな色が浮かぶ。気付かない振りをして、スプーンを
持ち直した。
貴族のぼんぼんに心配されるとは、・・・俺もやきが回ったもんだ。
考え事をしながら口に運んだスープは、思いっきり熱かった。

 声こそ出さなかったものの、顔色に出たのだろう。
ぼんぼんが、さも可笑しそうに笑いやがった。つれも、へらへら笑ってやがる。
犬っころは、そ知らぬ顔で、食事を続けていた。

・・・面白くねぇ(−−)。


次章に続く


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