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トゥーラ年代記

第7章の 34 


 シャークの踵が、相手選手の、首筋を捕らえる!
空中で回転し、フェイントと同時に、蹴りを打ち込んだのだ。
普段の彼のからは、予想できない大技である。
それだけ、この武術会を楽しんでいるのだろう。
幾度かの拳の打ち合いで、相手が打撃系であることを見抜き、
この大技に繋げたのだ。

 すでに、太陽はその姿を半ば隠し、広間は、焚き火の焔で照らされ
始めている。光量が減ったため、相手の体が見え難く、離れた距離からの
攻撃は不利だ。
掴みかかるまでが困難だが、この暗さは、投げ技中心の武術に有利に
働いている。そんな中で、相手から目を離すのは、愚でしかない。

 相手選手も、まさか、背を向ける大技が来るとは、思わなかったのだろう。
わずかに首を逸らしたものの、ほぼまともに食らっってしまった。
しかしながら、速さを優先したために、十分に体重を載せ切れなかったのか、
相手は、ぐらついたものの、倒れず踏みとどまった。

一方、シャークは、敵の眼前に無防備な状態で、着地してしまった。
膝を付くと負けになるため、安定した着地姿勢が、取れなかったのだ。
相手が膝を出せば、まともに顔に食らう位置だ。観客が息を呑む。
シャークは、動けない。投げを打とうと前に体重を掛ければ、
肩を軽く押さえれただけで、膝が付く。
距離をとろうと、後ろに体重を掛ければ、蹴り上げられ、バランスを
崩すだろう。

 じりじりと時間が流れる。実際には、わずかの間だったかも知れない。
相手選手が、上体の傾きを直しつつ、右の拳を放った。
それに呼応し、シャークが伸び上がりつつ、相手に密着する。
距離を詰めて、拳を封じようとしたのだ。
そして、その体勢のまま、相手を引っこ抜くように、投げを打った。

 空中で体重をあびせ、投げ技を潰そうとする対戦相手。
そうはさせじと、シャークは体をひねり、相手の背中を地面に向ける。
この空中での刹那の攻防戦に、観客の何人が気が付いたろう。
ほぼ同時に二人が倒れこみ、土煙が上がる。
シャークの膝か、対戦相手の背中か、どちらが早く接地したかで、
判定が割れ、審判団は協議に入った。


次章に続く


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