第1章の6 「もういい! もう終わった!!」 ・・・あれから、何時間が経過したのだろう。 耳元で怒鳴る声で、ようやく正気を取り戻した。 私の左手には、血に染まった岩塊が握られ、足元には、戦闘魔道士が、転がっている。 やつの顔の半分は、原形を留めていない。 ・・・どうやら、私の仕業のようだ。 私は、左右から、羽交い絞めにされるようなかっうで、両肩を固定されていた。 召還した獣たちはすでにいない。 街中で聞こえていた戦の音も消えている。 「・・・終わったんだ」 耳元で声がする。・・・私の手から、岩塊が、滑り落ちた。 ・・・この手で、人を殺めるとは・・・。 結局、私がリーダー格の男を倒したので、赤の属は一時、撤退したらしい。 白の国は守られたのだ。・・・今回は。 3日後、戦後処理にも目処が立ち、私は、新しい長老から呼び出しを受けた。 「ありがとう、異界の勇者よ。 心正しき、5属の使い手よ。」 「5属?」 「左様、・・・我らは、掟により、属する色以外の召還の術を持たぬ。ゆえに、未契約の符は、殆ど意味をなさぬ。そなたを、召還したのは、他に術を持たなかったからじゃ。」 「・・・、で?」 「そなたのとる道は、2つある。1つは、我らと力あわせ、元の世界に戻る術を探す方法。 いま1つは、おのれの才覚で生き、この世界で暮らす方法。・・・どちらを選ばれるかな?」 「・・・。いまの話では、戻る方法が解ってないようだが? ・・・聞き違いか?」 「・・・いいや」 長老は、頭を振って答えた。 「古来、異界の勇者を呼び出す術は伝わっているが、返す術は伝えられていない。 ・・・申し訳ない。わしらには他に手段が無かった」 「・・・フン! 勝手な言い分だな!」 「ご立腹はもっともじゃ、・・・いずれの方法を取るにしろ、その呪符は差し上げましょう。先にも言いました通り、我らにはあまり意味をなさない。それに、この世界で生きるなら、武器は必要でしょうからな。」 答えが決まったら教えてくれ、と言い残し、長老たちは去っていった。 ・・・武器、か。まさか、本当にカードで決闘をする日が、来ようとは。 それから1週間後、私は、白の属の若者と一緒に、旅立とうとしていた。 若者は、まだ見習で、戦力としてはあまりあてに出来そうもない。・・・が、 がっしりした体をしているので、召還を開始するまでの盾の役は、十分勤まるだろう。 ・・・そう、私は、長老たちの要請を受け入れ、ともに闘うことにしたのだ。 この世界で生きることは魅力だったし、元の世界に未練も無いはずだった。 ・・・なのに、帰れないと知ったとたん、無性に不安になったのだ。 自分の中の’何か’をもぎ取られたような不安感。 実際に帰るかどうかは、方法を見つけてからでも遅くは無い。 そう踏ん切りをつけ、とりあえず、最初の手がかり、 『イーター・ザ・ワールド』と、呼ばれている、深紅のドラゴンを探すことにした。 ・・・とにかく、世界構成とかかわっていそうな謎には、全てチャレンジしてみるつもりだった。 期間は3週間。それを過ぎると、1度帰還することになっている。 赤の属が再び、襲ってくる可能性があるからだ。 次章へ続く |