直線上に配置

トップ物語

イド見聞記


イド5王家の1つ、シン・ラーン国、商都ラーンにて

 焦げた、黒い木肌から、明るい緑の葉が芽吹いている。
戦があったのは、去年の事か。
・・・樹は、強い。こうして、新たな時を生きようとしている。
この街の人々は、どうだろう・・・。
再生の儀式を、迎えられたのであろうか?
新たな主筋に、税を治めることが、出来るのだろうか?

 この街は、元々独立の気風が高く、前王家からも、
半自治を約されていたという。
それが仇となり、見せしめに攻め落とされたのだ。
街の半分近くが焼失したと聞く。現在の統治者に恨みを
抱くものも多いことだろう。

 前王家の姫は国土の東に有る、シン島に落ち延び、王家の
再興を図っている、と、言うが・・・、はたしてどこまでやれるのやら。
各地の領主どもは、戦わずして、続々と、現王家に下っている
ようである。
国王とその后も、部下の裏切りに会い、捕らえられ幽閉された
と聞く。

 この事変は、対外的には5王家内の、お家騒動と捉えられており、
周辺国家は今の所、動く気は無いらしい。


シン島、王宮内鍛錬所にて、

 今日も、兵士たちに混じって、小柄な剣士が鍛錬に励んでいた。
今しがた、ふらりと立ち寄った旅の剣士との模擬戦を終え、
汗を拭っているところである。

「まあ! 今の方が、シャーク様なの?!」
 側近から耳打ちされ、小柄な剣士は驚いた声を上げた。
シャークは、傭兵王と、あだ名される、凄腕の剣士で、決まった国に
仕える事が無く、戦場を渡り歩いている人物である。
 各国から、騎士隊長に、との依頼が、殺到していると、もっぱらの噂だ。

「シャークおぢさん、とでも、呼んで下され(^^)」
 男は、顔を、くしゃっと破顔させて、答えた。
「姫様は、剣に興味をお持ちのようですな。なかなかの腕でございました。
・・・しかし、これだけは言って置きたい。剣とは、人殺しの道具です。
それ以上でも以下でもない。・・・姫様は、赤子の首を切る事が、
出来ますかな? 己の手で、小さな命を絶つことが、出来ますかな?
それが出来ない者は、戦場では生き残れないのです。世に、英雄なぞと
たたえられる人物は、皆、人を殺めてその栄誉を受けているのです。
・・・姫様、人を殺める覚悟が無いのなら、剣を倣うのはおよしなさい。
剣を手に持ち、人を救おうなぞ、傲慢もいいところです。
人殺しの作業は、兵士・騎士にお任せなさい。・・・その為に、私のような
者が、居るのですから・・・。」

 一気に言い放った後、彼は少し考えて、こう、付け足した。
「・・・その、綺麗な両手を、血に染めるつもりがありますかな?
’シン・ラーンの光’と称された、その栄誉を、血塗られた吸血姫と、
変えるおつもりですかな? ・・・世間から目をそらせ、と、言っている
わけではありませぬ。私めは、貴方にしか出来ぬ事をして
欲しい、と、思っているのです。」
 そう言ってシャークは、おもむろに、臣下の礼を取って見せた。

王国暦256年、春の事である。

次章に続く


プラモ&パズル まじっく トップへ

直線上に配置